Column|ソメイヨシノより早い!早咲き桜を楽しもう 2020年02月04日
桜の品種は、園芸種や変種も数えると、300とも600とも言われています。
その中でも圧倒的に人気はソメイヨシノ。関東では3月下旬〜4月上旬に見頃を迎えますが、待ちきれない!という方もいらっしゃいますよね。
早咲きの桜というと、「沖縄で満開!」などのニュースが記憶に新しいカンヒザクラのイメージが強いと思いますが、それ以外にも色んな早咲きの桜があります。その中から身近なものを中心にご紹介します。
早咲きの桜を知って、一足早く桜を楽しみましょう!
■早咲きの桜たちの種類
目次
- (1)エドヒガン系
- (2)カンヒザクラ系
- (3)カラミザクラ系
- (4)その他の特別な桜
(1)エドヒガン系
●エドヒガンザクラ(江戸彼岸桜・彼岸桜・ヒガンザクラなど)
- ●日本原産の野生種
- ●本州、九州、四国に広く分布
- ●ソメイヨシノよりも早く咲く
ソメイヨシノがこのエドヒガンを片親にして生まれたということもあり、生育条件によっては実際にとてもよく似た見た目をしていますが、ソメイヨシノよりだいたい1週間ほど早く咲きます。
彼岸というのはもともと春分・秋分を中日とする前後の七日間を指します。関東ですとだいたい春分(3月20日頃)のころに咲きますので、ぴったりの名前ですね。
古くからある桜のため、神社や庭園などにもよく植わっています。
樹齢数百年の巨木にはエドヒガンが多い
岐阜県の樹齢1500余年「根尾谷淡墨桜(ねおだに うすずみざくら)」など、有名なエドヒガンザクラの木は沢山あります。
エドヒガンの特徴として、「樹高が10〜15mと高い」「高齢になっても花が咲く」「幹の成長速度が遅く、幹の直径が1mになるまで場合によっては100年から200年かかるため、折れにくく腐敗しにくい」というのがあり、これが巨大な古木を生むようです。
エドヒガン(岡山大学理科大 波田研)
ソメイヨシノ(岡山大学理科大 波田研)
どっちかな?と思った時は、花びらの支えの部分(萼筒、がくとう と言います)をチェック。
エドヒガンの萼筒(がくとう)は、ソメイヨシノに比べて、かなり丸みをおびえててふっくらしています。
●イトザクラ(糸桜)
- ●エドヒガンの栽培品種の一つ
- ●ソメイヨシノよりも早く咲く
イトザクラ(神戸新聞)
いわゆる「枝垂れ桜」ですが、イトザクラはエドヒガンの一種です。同じ品種なのですが、枝の成長速度が速いものは、枝が重さを支えられずに先端が下向きに伸びるので、しだれた形になって「イトザクラ」と呼びます。
偶然下向きに伸びるようになるため、枝垂れ桜の子供を植えても枝垂れ桜になるとは限らないそうです。
イトザクラ(ONちゃんのフォトギャラリー)
同じ品種なのでエドヒガンと同じ特徴があり、色味も薄紅色で、白に近いものからピンクに近いものまであります。顎も丸く膨らんでいてるのがわかります。
(2)カンヒザクラ系
●カンヒザクラ(ヒカンザクラ、緋寒桜)
- ●中国南部から台湾が原産の野生種(別名 台湾桜とも)
- ●ソメイヨシノよりかなり早く、1月〜3月頃に咲く
- ●花は濃いめのピンク色
カンヒザクラ(植木ペディア)
カンヒザクラ(広島大学デジタル自然史博物館)
早咲き桜の代表格、カンヒザクラです。
もともとは緋寒桜(ヒカンザクラ)という名前ですが、ヒガンザクラ(彼岸桜)とよく似ていて間違いやすいため、最近は「カンヒザクラ(寒緋桜)」という風に呼ぶことが多くなっているようです。
ソメイヨシノに比べて花が小ぶり(1.5〜2.5cm程度)ですが、パっと目を引く華やかなピンク色をしているため、地味に感じさせません。花びらは閉じ気味で、下向きにつき、散る時は花ごと落ちるため「桜吹雪」にはなりません。
カンヒザクラからたくさんの早咲きの桜が生まれていて、「早咲き」「濃いピンク色」という特徴が受け継がれています。
●リュウキュウカンヒザクラ (琉球緋寒桜)
- ●沖縄のカンヒザクラの変種
- ●ソメイヨシノよりかなり早く咲く(1月上旬〜)
リュウキュウカンヒザクラ(毎日新聞)
リュウキュウカンヒザクラ(野の花讃歌のブログ)
沖縄の開花ニュースでみかける桜は、実はカンヒザクラの中の変種でリュウキュウヒカンザクラと呼ばれています。普通のカンヒザクラと違って花びらが平らに開くので、より華やかで愛らしい印象があります。沖縄の人は、ふつうにヒカンザクラと呼んでいるそうです。
●カンザクラ(寒桜)
- ●カンヒザクラ(緋寒桜)の雑種
- ●ソメイヨシノよりもかなり早く咲く(1月中旬〜)
- ●寒さに弱いため、関東以南
- ●別名 アタミザクラ/アタミカンザクラ
カンザクラ(熱海桜) (桜日和)
カンザクラ(熱海桜) (桜日和)
これも「カンヒザクラ」と紛らわしい名前ですが「寒桜(カンザクラ)」。
ややこしいことに、カンヒザクラを片親とする早咲きの桜全般が「寒桜」と呼ばれる場合もあるのですが、ずばり「カンザクラ(寒桜)」という品種の桜もあります。
1871年(明治4年)にイタリア人によってもたらされたというこのカンザクラは、別名熱海桜ともいい、昭和52年には熱海市の「木」に制定されています。
薄いピンク色の花が咲き、花とほぼ同時に葉も顔をだします。一つの木の中に「早咲き」と「遅咲き」の両方の芽があるため、開花のシーズンが長いのも特徴です。
とにかく開花が早いので、関東圏で1月の桜を楽しみたい方にはぴったり。
●河津桜
- ●園芸品種
- ●寒さに弱いため、関東以南
- ●ソメイヨシノよりもかなり早く咲く(1月下旬〜)
河津桜(OZmall)
色味が強いピンクの桜。濃いピンクの桜といえば河津桜!という定番の品種。
発祥地の静岡県河津町では、1971年(昭和54年)に町の「木」に制定されました。
はっきりとしたピンクで、3.5cmほどもある大ぶりの花びらが180度開くので、とても豪華!
オオシマザクラとカンヒザクラの交雑種と思われており、2月上旬から咲き始めて、満開になる前から華やかで見応えがあるので、比較的長く楽しめる桜です。
咲き始めの頃の河津桜(極楽!河津桜花見術)
散り始める頃の河津桜(極楽!河津桜花見術)
開花直後は花びらの外側にむけてピンクが強いグラデーションになっており繊細な美しさです。開花後、花が散る前になると、おしべの色が赤みをおびるので、木全体でみると赤みが強くなったようにも見えます。
天候によっては葉が同時に出てくることもあり、うねりのある小さめの若葉の淡い黄緑とあわせてポップで華やかで見所の多い桜です。
●オオカンザクラ(大寒桜・安行寒桜)
- ●栽培品種
- ●ソメイヨシノよりも早く咲く(3月中旬〜)
オオカンザクラ・安行寒桜 (植木ペディア)
埼玉県川口市安行で発見されたので、別名アンギョウカンザクラともいいます。
カンヒザクラとオオシマザクラの雑種と考えられている品種で、ソメイヨシノよりも一週間程早く咲き、はっきりとしたピンク色が特徴です。隅田川の永代橋の近くで一足早く春の訪れを告げてくれているのも、大寒桜だそうです。
永代橋のオオカンザクラ(PHOTOHITO しま6)
花びらは少しすぼみがちに、やや下向きに咲きます。花径は3cm程度。見慣れたソメイヨシノは花径3-3.5cm程度なので、オオカンザクラは「やや小ぶり」で、全体として愛らしい印象に感じられます。
桜が散るよりも前に新葉がではじめるので、ピンク一色と、グリーンの混ざった風合いと、二度楽しめます。
枝が横に広がるように伸び、樹高も5〜10m程度で、ソメイヨシノほどは高くなりません。
(3)カラミザクラ(シナミザクラ)系
●カラミザクラ(シナミザクラ、支那実桜)
- ●中国原産の種
- ●ソメイヨシノよりも早く咲く(3月上旬〜)
- ●樹高10m程度
- ●実は食用になる
原産地中国では「桜桃(インタオ)」と呼ばれており、「中国桜桃(おうとう)」という別名があります。やや梅に似た雰囲気の花がつきます。日本には江戸末期に入って来た桜で、日本の桜と合わせてたくさんの品種の親になりました。
シナミザクラ(Wikipedia)
シナミザクラ(四季の山野草)
●トウカイザクラ(東海桜)
- ●園芸種
- ●ソメイヨシノよりも早く咲く(3月中旬〜)
- ●促成栽培で、12月中旬から流通する
トウカイザクラ(木々の移ろい)
カラミザクラとカンヒザクラの雑種という説や、シナミザクラの台木にコヒガンを接いで作ったという説など、諸説あってはっきりしないものの、シナミザクラの系統であることは間違いなさそうです。
薄いピンクの花びらは2cm程度と小ぶりで、迎春に相応しい繊細な美しさがあります。
樹高はカラミザクラよりも低く2〜4m程度で扱いやすく、ほうき形に細めの枝がよくつき、促成栽培に向いているため、切り花として流通しています。「啓翁桜(けいおうざくら)」といえば生け花をしている人には春のおなじみの花材ですね。山形県の特産品で、シェアの7割を誇っています。
(4)その他の特別な桜
同じ品種でも、とくに早咲きといった個性がある場合に、別名がつくことがあります。
●寒咲大島(カンザキオオシマ)
- ●伊豆大島にて2月〜
- ●オオシマザクラの早咲き品種
カンザキオオシマ(日本の植物たち)
カンザキオオシマ(東京都大島支庁)
ふつうのオオシマザクラはソメイヨシノと同じ頃に咲きますが、その中で極端に早咲きのものをカンザキオオシマと呼びます。伊豆大島では例年クリスマス頃にはちらほらと咲き始め、見頃を迎えるのは2月下旬〜3月中旬。
オオシマザクラは4〜5cmにもなる大輪の白い花びらと、花と葉に香りがあるのが特徴的ですが、カンザキオオシマでは元のオオシマザクラよりも数倍強い芳香を持つそうです。
伊豆大島はちょっと遠い、という場合は、東京都文京区の小石川植物園でも見られます。(咲き頃は3月上旬〜下旬)
●十六日桜
- ●ヤマザクラの早咲きの品種
- ●松山市指定の天然記念物
- ●旧暦の1月16日頃に咲いていたという伝承から。
16日桜(松山市)
16日桜(松山市)
通常のヤマザクラはソメイヨシノとほぼ同時期に咲きますが、その早咲きのもの。
この桜を指定天然記念物にしている松山市では、この桜にまつわる伝承を二つ紹介しています。
①「老翁がもう花を見ることもあるまいと嘆いたことから、これに感応した桜が早く咲くようになった」
②「長く病床にあった父が桜の花を見たいと願うので、子の吉平が庭の桜に祈ったところ、寒中の1月にもかかわらず、16日に花が咲いた。この奇跡によって老父は以後長寿を保った」
これらの伝承を膨らませたのが、小泉八雲の『怪談』の中にある「十六桜」だそうです。
桜を見て神秘的なものを感じるのは、今も昔も変わらないということでしょう。
以上、早咲きの桜をご紹介してきました。
早咲きの桜では、ソメイヨシノの頃よりも落ち着いてお花見を楽しめることも多く、また、人によっては「花粉症が気にならない」などのメリットも。
早咲きの桜は、意識してみると、実は意外といろいろなところで咲いています。ぜひみなさま早咲きの桜をお楽しみ下さい!
参考
- ●広島大学デジタル自然史博物館
- ●『サクラハンドブック』大原隆明
- ●『桜の科学』勝木俊雄
- ●『The Japanese Soul Flower SAKURA』 水野 克比古、水野 秀比古